9:子供の盲目的な愛
今回は、私のカウンセリングを
モニター利用して下さった、
「Nさん(大阪府在住・45才・女性)」
の before & after をお伝えする
第9回目の記事です。
今回は、「父の姉」が幼くして
亡くなってしまったことで、
Nさんの家族が抱える
こととなった心理の課題が、
世代を越えて、Nさんの
生きづらさや、苦しみに
どのような影響を及ぼして
いたのか?
ここに焦点を当てます。
心理カウンセラー
長谷川 貴士です。
- 愛によって死へと
向かう衝動が生まれる - 願い・子供の夢想
- 私が代わりに死にます
- 生き残るために
心を失わせる
1:愛によって死へと
向かう衝動が生まれる
Nさんの「父の妹」は、
自分が生まれる前に、
すでに「姉」が幼くして、
亡くなっていました。
そのために、
Nさんの「父の妹」は、
「お姉さんの死と引き換えに
自分は生きている。
(お姉さんが生きていたなら
自分は生まれて来ては
いなかっただろう)」
この想いや罪悪感を
抱えていました。
Nさんの「父」は、
その「妹」の
心の苦しみを心配しました。
そして、
自分(Nさんの父)も、
「それは私も同じだよ。
(私も姉の死と引き換えに
今、生きていられる)」
この想いを抱えるように
なっていました。
このために、
Nさんの「父」も、
自分が生きていることに
罪悪感を抱えていました。
姉の不幸な死によって、
自分が生かされている。
Nさんの「父」と
その「妹」が深層心理に
抱えてしまっている、この想いが
大きな「心理的負債」となります。
この大きすぎる
心理的負債によって
心のバランスが
崩れてしまいます。
Nさんの「父」や、
Nさんの「父の妹」は、
その崩れてしまった
心のバランスを、
心理的負債を返済することで、
再び取り戻したい
と願っていました。
その願いのために、
亡くなっている姉に対して、
償いや、埋め合わせをする
必要があるように
感じ始めます。
しかし、すでに亡くなって
しまっている方へは、
実際には何もすることが
できません。
そのために、
亡くなってしまっている「姉」
の「弟(Nさんの父)」と「妹」が、
すでに亡くなって
しまっている「姉」への
償いや、埋め合わせとして
選択していたのは、
自らを死へと向かわせる
衝動でした。
それは、不幸にして
亡くなってしまった「姉」と、
自分たち
(「Nさん父」と「その妹」)も
同じ状態になりたい。
この衝動です。
「Nさん父」と「その妹」は、
「姉」と同じだけ
不幸になることが、
亡くなることで、
自分たち
(「Nさん父」と「その妹」)
に生まれてくる余地を
作ってくれた「姉」への、
せめてもの償いや埋め合わせに
なると感じていました。
この仕組みで、
「妹」は「姉」への
申し訳のなさや罪悪感から、
死への衝動を抱えてしまいます。
「弟(Nさんの父)」は、
その「妹」の罪悪感=心理的負債
の返済を肩代わりすることで、
妹を助け、守りたい。
この想いから、
自らを死へと向かわせる
衝動を深層心理に抱えて
しまっていました。
「兄(Nさんの父)」と「妹」、
それぞれが、
それぞれの「愛」のために
自らを死へと向かわせる
衝動を深層心理に抱えて
しまっていました。
2:願い・子供の夢想
不幸にして、
自分が生まれる前に、
「姉」が幼くして
亡くなってしまうことで、
「妹」の、心理面や、実際面で
起こることについて、
ここで、一度、整理してみます。
<1> 家族での地位が譲られる
家族の中の「姉」の地位や
役割が「妹」に移ります。
このために、「妹」の心理面では、
自分の命や、長女の地位、
家族の一員として居られること
などが、
「姉」の死と引き換えに、
自分に与えられた
プレゼントのように感じられます。
「もし、姉が生きていれば、
両親は、もうそれ以上
女の子の出産を望むことが
無かったかも知れない。」
「姉」の死の後に生まれた「妹」が、
深層心理にこのような想い
を抱えていることも
少なくありません。
この時の「姉」は、たとえ、
死産や、流産、中絶などで
亡くなってしまっていても、
その「妹」は、深層心理に
上記のような想いを
抱えることがあります。
そして、
自分が生まれることが、
「姉」の死のために
可能になったかのように
思い始めてしまいます。
<2> 心に負債を抱える
上記<1>のようなとき、
「妹」には、自分の命や、長女の地位、
家族へ所属できていることなどが、
本来は自分が受け取るには
大き過ぎて、不釣り合いな、
権利や贈り物のように感じられます。
このために、自分の命や、
長女の地位、家族への所属が、
大き過ぎて、
とても返すことができないような
「心理的な負債」に感じられます。
このことで、心のバランスが
崩れてしまいます。
その結果、自分が死んで、
「姉」と同じ境遇になることが、
自分が「姉」から
受け取り過ぎてしまい、
大きな負債と感じてしまっている、
命という贈り物や、
家族の中での権利や、地位、
などについての返済や、埋め合わせ
になると深層心理で感じ始めます。
これが「死への衝動」です。
<3> 自己処罰
上記<2>のような
心理的な負債を
深層心理に沢山抱えた状態は、
とても苦しい状態です。
心や体に、理由の分からない
以下のような症状が
出て来ることも
珍しくありません。
【 症 状 の 例 】
■ 重苦しさや、息苦しさ。
寂しさや、哀しみ。
■ 何も出来なくなるほどの
倦怠感や、元気や力のなさ。
■ 自信のなさや、
他者に対しての
大きすぎるな引け目や、怖さ。
このような症状は、
償いや埋め合わせのための
「死への衝動」を抱えながらも、
生き続けている自分が、
本当に死んでしまう代わりに
引き受けている「罰」でもあります。
「姉」のことだけを思えば、
自分が死ぬことで、
「姉」との間で崩れてしまった
バランスを取り戻したくなります。
しかし、両親や、他の兄弟の存在が、
それを思いとどまらせます。
両親や、他の兄弟は
自分が生き続けることを
願っていることを
深層心理では気が付いています。
私達の深層心理は、
その両親や兄弟の願いを
無視することも、
「心理的な負債」となる
ことを知っています。
この「生きる」「死ぬ」の
二つの想いの過酷な板挟みの中、
深層心理の中では、
次のように言い続けています。
「私は、苦しい罰を
受け続けています。
だから、生きていることに
喜びや楽しさはなく、
私は、苦しんでいます。」
「私は、生きていることの
良さを何も受け取っていません。
だから、どうか、私だけが
生きていることを許して下さい。」
この深層心理の想いと共に、
生き続けても許される理由を
自分に用意するために、自分に
「罰」としての症状を与えます。
<4> 願い(子供の夢想)
上記のような想いから生じている、
自分が生きていることへの
「自己処罰」によって、
生きていることが「苦しみ」で
満たされている感覚になります。
それは、とても苦しい状態であり、
生きている意味が分からなくなる
ような状態です。
この状態にあると、
「自分が姉の代わりに死ぬことで、
姉が戻って来れば良いのに。
それで全てが解決するのに。」
このことを深層心理で
願い始めます。
もちろん、この願いは、
叶うことがありません。
自分が亡くなることで、
誰かが生き返ることはありません。
この願いには、
「姉」が亡くなってしまった
「姉」の運命に対する
悲しみと怒りが含まれています。
そこには、
「姉の死」という取り返しの
つかない出来事を変えたい。
(しかし、決して叶わない。)
この願いから生じる、
無力感と自暴自棄の感覚も
含まれています。
◆ ◆ ◆
これが、自分が生まれる前に、
不幸にして、「姉」が
亡くなってしまうことで、
後から生まれてきた
「妹」の心理面や、実際面で
起こることでした。
次は、「姉」の死により
Nさんの「父」=妹の兄(姉の弟)の、
心理面や、実際面で
起きていたことを整理します。
それは以下の通りです。
<1> 家族の中での地位
「姉」の死により
兄弟の中での地位・順番が
一つ上がります。
「Nさんの父(姉の弟、妹の兄)」も
そのことへの償いと
埋め合わせの衝動を感じ始めます。
そして、「妹」と同じく
<2> 心に負債を抱える
<3> 自己処罰
この二つの課題を抱えます。
<4> 願い(子供の夢想)
「妹」にも自分と同じ
心理的な負債があることに気が付く時、
その心理的な負債を妹より、
自分がより多く引き受けたいと
願うようになります。
妹にとって、兄であり、
家族の中で「上位者の立場」
である自分が、
家族の中で下位の妹に
保護と助けを与えたいと願います。
そして、自分が
「姉」の代わりに死ぬことで、
「姉」が生き返り、
「妹」が死なずに済むことを
深層心理で願います。
このような
< 子供の夢想 >とでも
言えるような想いを深層心理に
抱えるようになります。
◆ ◆ ◆
ここで紹介させて頂いた
プロセスは、
「Nさんの父」にとっても、
Nさんのお父さんの
「妹」にとっても、
お姉さんへの「愛」から
始まっているプロセスです。
しかし、その「愛」は、
深層心理の中の<子供の部分>
が家族に抱き続ける、
純心で盲目的な「愛」です。
その盲目的な「愛」は、
< 自己処罰 >として、
自分で自分の幸せを
制限するようなプロセスを、
私達に進ませてしまいます。
3:私が代わりに死にます
家族への盲目的な「愛」のために、
Nさんの「父」や、
その「妹」の深層心理には
「姉」が亡くなり、
自分たちが生きていることへの
罪悪感を埋め合わるための、
隠れた「死への衝動」が生まれます。
その「死への衝動」のために、
実際に死ぬことはないにせよ、
生きていることで得られる
楽しさや、人間関係の温かさ
などの幸福感を、
自分から遠ざけようとする
傾向が生まれます。
============
「死への衝動」を
抱えている方の様子の例
・いつもイライラしている
・怒りっぽい
・家族と交わろうとしない
・笑わない
・しゃべらない
・目を合わさない
・体調の慢性的な悪さ
・ギャンブルや投資で
大きな損をする
・まじめで神経質
・過剰な努力を続ける
・気分が大きく沈む
・死にたい想いを抱える
など
===========
上のような特徴を持つことで、
生きていることから得られる
幸福感を、
自分から遠ざけようとする
傾向が生まれます。
そして、その傾向に、
Nさんの「父」や
「父の妹」(叔母)の子供達、
つまり、Nさんや、
Nさんの従妹(いとこ)
が気が付く時、
父や母の深層心理の
死に傾いたバランスを
取り戻すことを
助けようとします。
父や母を助けることで、
父や母が死を望まずに、
自分たちと生き続けてくれる
ことを深層心理で願います。
父や母をこの世に留めるために、
同時にそのことで、
自分の居場所である、
家族を保つために、
父や母にある「死の衝動」を
消したいと願います。
そのために、子供自らが、
父や母が抱えている
「死へと向かう衝動」を
肩代わりしようとします。
◆ ◆ ◆
Nさんが、今回、6回目の
カウンセリングで口に出す
必要のあった言葉は、
夭折 (自死・早世) した
Nさんの従妹(父の妹の娘)の
立場に立って、
「お母さんの代わりに
私が死にます」
これでした。
Nさんの従妹は、
お母さん(Nさん父の妹)が
抱えてしまっていた
「死への衝動」が
自分が代わりに死ぬことで、
取り消されると信じ、
お母さんがこの世に留まり、
生き続けることが
できることを願いました。
これが、
カウンセリングの中で現れてきた、
Nさんの従妹(いとこ)が
深層心理に抱えていた想いであり、
Nさんの従妹(いとこ)が
自死を選んだ隠れた理由でした。
このNさんの
従妹(いとこ)が選んだ
自死という選択は、
Nさん自身の身に
起きていたとしても
不思議ではないことでした。
Nさんの「父」と、
従弟(いとこ)の母
(=父の「妹」)とは
「姉」の幼死という
同じ運命を共有し、
同じ心の課題を
抱えていたからです。
Nさんも深層心理の部分で、
自分の父が「死への衝動」を
抱えていることに
気が付いていました。
このために、
Nさんの従妹が自死し、
Nさんが生き続けていることは、
同じ「家族の心の課題」を
背負ってきた者同士である、
Nさんと従妹の間に、
亡くなってしまった者と
生き続けている者との
不公平を作りました。
その不公平が、
Nさんの深層心理に、
大きな罪悪感と自己処罰を
作ることになりました。
これは、
Nさんの「父」と「その妹」が、
「姉」が亡くなったことで
抱えることになった
「死への衝動」と
自分が生きていることへの
罪悪感と自己処罰。
これと同じ構造です。
このように、
家族の心理的な課題が形を変えつつ、
世代を越えて連鎖していました。
4:生き残るために
心を失わせる
Nさんと、Nさんの
従妹いとこ(父の妹の娘)は、
外見が良く似ていたそうです。
そして、内面でも、
同じ家族の課題を運命として
背負う同士でした。
その同士であった、
従妹(父の妹の娘)の
「自死」に触れて
Nさんが感じたことは
Nさんにとって、タブー
(=触れてはいけないもの)
となりました。
悲しみ、口惜しさ、
恐怖、怒り、惨めさ・・・・。
その全てが感じてはならない、
タブーとなりました。
Nさんが、従妹(いとこ)の
「自死」についての
感情を感じて消化して
いくならば、
Nさんは、従妹の死に触れた
ショック状態から回復します。
心がクリアになることで、
Nさんには従妹の
「自死」の意味に明確に気付き、
理解してしまう日が訪れます。
それは、Nさんにとって
耐えがたいことでした。
なぜなら、
「愛」(子供の盲目的な愛)の
ための行動をやり遂げた従妹と
それが出来ずに、
生き続けている自分との
不公平がより明確に
浮彫になってしまうからです。
Nさんが、従妹の死の
意味について、
その全てを理解することは、
Nさんに様々な罪悪感を引き起こし、
Nさんが、この世に留まることが
難しくなることを意味していました。
このために、
従妹の死の意味について、
自分の深層心理で
言葉にならない感覚で受け止め、
全てを理解したその時から、
Nさんの心の中の
時計の針が止まりました。
その時から、自分の感情や、
自分が分からない人に
なってしまいました。
楽しい気分や、喜び、
人とのつながりを
十分に感じることが出来ない、
真っ暗な心になりました。
しかし、
Nさんには、たとえ
その状態になったとしても、
避けたいことや、
やり遂げたいことがありました。
それは、Nさん自身が、
同じ家族の課題を
深層心理に抱える同士であった、
従妹(父の妹の娘)の
死の後を自分も追うのではなく、
「死への衝動」を自分はこらえて、
この世に留まり、生き残り、
従妹(父の妹の娘)とは
別の方法で、
家族の心理的な課題を
解決する方法を
探し続けることでした。
このためにも、Nさんは、
従妹の死に触れた時から
心を失いました。
これが、「父の姉」が
幼くして亡くなってしまったことで、
Nさんの家族が抱えること
となった心理の課題が、
世代を越えて、
Nさんの生きづらさや、
苦しみに及ぼしていた
影響でした。
Nさんは、その影響の中に
ありながらも、歩むことを止めず、
20年以上かけて、
自分の心の課題と取組み続けました。
自分の心の課題を解消する方法を
探し求め続けました。
そして、
私のカウンセリングと出会い、
その心の課題を解消する日を
迎えることができました。
カウンセリングの中で
従妹の立場に立ち、
「お母さんの代わりに
私が死にます。」
この一言が言えた時に、
Nさんは、これまでの
心のタブーを乗り越えて、
これまで隠されていた
真実の全てに目を向けること
ができました。
真実に目を向けることが
出来たことで、
Nさんは、家族の心の課題を
解消することが出来ました。
そして、自分の心を
20年以上ぶりに取り戻す
ことができました。
< 琵琶湖東岸からの景色 >
次回は、
Nさんのカウンセリングの
1回~6回目までの≪まとめ≫です。
次回もお楽しみに。
※このNさんの事例の